- 第51位「アメリカにおけるデモクラシーについて」トクヴィル
- 第52位「菜根譚」洪自誠
- 第53位「7つの習慣」コヴィー
- 第54位「ペスト」カミュ
- 第55位「言志四録」佐藤一斎
- 第56位「饗宴」プラトン
- 第57位「古事記」太安万侶編纂
- 第58位「韓非子」韓非
- 第59位「運命を創る」安岡正篤
- 第60位「プロフェッショナルの条件」ドラッカー
- 第61位「ガリア戦記」カエサル
- 第62位「源氏物語」紫式部
- 第63位「論語」孔子
- 第64位「星の王子さま」サン・テグジュペリ
- 第65位「南洲翁遺訓」西郷隆盛
- 第66位「永遠平和のために」カント
- 第67位「氷川清話」勝海舟
- 第68位「ツァラトゥストラはこう言った」ニーチェ
- 第69位「修身教授録」森信三
- 第70位「逝きし世の面影」渡辺京二
- 第71位「21 Lessons」ハラリ
- 第72位「アメリカの鏡・日本」ミアーズ
- 第73位「平家物語」作者不詳
- 第74位「この人を見よ」ニーチェ
- 第75位「老子」「荘子」老子・荘子
第51位「アメリカにおけるデモクラシーについて」トクヴィル
(中公クラシックス)
※原書の最重要部分(第2部第6~9章)を抜き出した抄訳
(岩波文庫)
※原書の全体訳。アメリカの強さの秘密に迫る名著
【どんな本?】
数多くの欠陥を抱えながらも、「一部の知識階級が蒙昧な民衆を支配する」というヨーロッパの常識を打ち破り、民衆自身が自由と権利を実現して国力を高めるアメリカの強さを分析した歴史的名著。
時にトランプのような奇抜な大統領を生み出し、右に左にフラフラ揺れながらも、なぜアメリカは世界No1であり続けられるのか、建国の歴史からその秘密に迫る。アメリカという国や国民性を理解する上では、本書、「フランクリン自伝」「プラグマティズム」の3冊は必読。
【トクヴィルが伝えたいこと】
デモクラシー(多数派支配の民主主義)は構造的欠陥を多数持つが、全体としてそれ以上の「成果」を出すことができる。アメリカのデモクラシーに貢献している要素は主に以下の3つであり、影響力は(1)<(2)<(3)である。
(1)建国の諸条件
身分差のない平等さ、開拓で得た独立心、成功欲、権利意識
(2)法制の影響
連邦制、地方自治の諸制度、司法制度(特に陪審制度)
(3)習俗
政教分離、実利重視、政治への参加による経験教育
第52位「菜根譚」洪自誠
【どんな本?】
混迷する時代において、逆境をいかに乗り切るかを示した処世訓。明代末期の内乱や政争が相次いだ時代において、形骸化した儒教道徳に「道教」や「仏教」の要素を導き入れ、新しい命を吹き込んだ。
「菜根」は「人はよく菜根を咬みえば、すなわち百事をなすべし」という故事に由来し、「野菜の根は非常に硬いが、それをかみしめるように、苦しい境遇に耐えることができれば、人は多くのことを成し遂げることができる」という意味。お野菜に関する本ではない。
田中角栄(元総理大臣)、松下幸之助(パナソニック創業者)、野村克也(元プロ野球監督)ら、各界のリーダーたちから座右の書として愛されてきた、読書好きだけが辿り着く「隠れた名著」。
【洪自誠が伝えたいこと】
人生で大切なことは、「才能(=スキル)や権力」ではなく「道徳(=人としての正しい道)」である。極端を避け、一歩引いた、自然とともに歩む人生を送ることが、幸福の秘訣である。
第53位「7つの習慣」コヴィー
【どんな本?】
過去の成功者に共通する法則を見出し、中でも重要なのは「高潔な人格」と「信頼に基づくWin-Winの人間関係」であると説く。全世界が認める20世紀最強の自己啓発本。何らかの目標や行動指針を持ちたいと思っている人に特におすすめ。
【コヴィーが伝えたいこと】
人生の成功に必要なのは、テクニックではなく、高潔な人格そのものである。外部からの刺激と自分の反応の間にスペースを置き、自分の反応に全責任を負わなくてはいけない。また、自分の進むべき道やゴールを明らかにし、意識的に時間とパワーを投下してそれに近づく努力も必要である。
自分の人格に自信を持つことで初めて、臆することなく他者と信頼関係を築くことができる。共感による傾聴によって相手も自分も高められるような道を見付けることで、あなたの人生はより豊かになる。
第54位「ペスト」カミュ
【どんな本?】
感染症の流行とそれに伴う死、離別、相互不信、現実逃避といった極限状態にあっても、神に頼らず、誠実さや自分の職務を果たす人々がいた。世の中の不条理に対し、人間はどう連帯し、どう抗い、どう生きるべきなのかを問う「不条理文学」の金字塔。
70年近く前の作品ながら、人々の混乱、行政の後手対応、増え続ける感染者、都市のロックダウンなど、2020年に始まった新型コロナウィルス感染症の流行と全く同じ光景が繰り広げられる。今こそ読み返されるべき一冊。
【カミュが伝えたいこと】
人間がペストという不条理に直面した際に為すべきことは、神に救済を求めることではなく、不条理に反抗することである。
神への信仰を維持し、自分を含む罪のない人々が不条理に死んでいく世界を愛し続けるか、あるいは神への信仰を捨ててそれに抗うかの二択なのである。人間が人間らしくあるためには、各個人がそれぞれの持ち場で出来る限りのことを誠実にやり遂げ、ペストという不条理と闘っていくしかないのだ。
第55位「言志四録」佐藤一斎
【どんな本?】
幕末の儒学者佐藤一斎が、数十年にわたって書き継いだリーダーシップ論であり、指導者のバイブル。「人が自分にどのような態度・反応を示すかは、全て自分の心が整っているか否か次第である」といった箴言が多数並ぶ。
西郷隆盛が島流しに遭っている間に本書を抜粋し、西南戦争で敗死するまで肌身離さず持ち歩いたほか、吉田松陰、坂本龍馬の愛読書でもある。また、西郷による抜粋版を献上された明治天皇は「朕は再び朕の西郷を得たぞ!」 と叫んだと言われている。明治維新の巨人を生んだ思想的背景が理解できる一冊。
【佐藤一斎が伝えたいこと】
災いは下からではなく、上から起こる。リーダー自身が徳を身に付け、自らを制御し、常に前向きに、情熱を持って部下を導かなければならない。
第56位「饗宴」プラトン
【どんな本?】
古代ギリシャの哲学者プラトンが、ソクラテスを含む複数名に「愛とは何か」を語らせる平易な演説集。副題は「エロスについて」。平たく言うと飲み会での恋バナ集。別著『国家』で本格的に展開されるイデア論も見られる。
合計6名が愛について演説するが、前半は演説技法が未熟か、レトリックに頼り過ぎであり、後半になるに従って、骨太な哲学的議論が展開される。ソクラテスが演説者に様々な質問を投げかけ、論点を整理することで、愛の本質に迫っていく様子は圧巻。
イギリスの哲学者ホワイトヘッドは「西洋哲学の歴史とはプラトンへの膨大な注釈である」と言ったが、まさに現代まで続く「愛に関する議論」が次々と展開されていく古典の名著。
【プラトンが伝えたいこと】
エロスは、まずは肉体的な愛から出発し、やがて肉体を離れ、精神へ、そして最終的には美のイデアへと上昇していく。
第57位「古事記」太安万侶編纂
【どんな本?】
日本最古の歴史書。天武天皇の命で稗田阿礼が口述し、元明天皇の命で太安万侶が編纂したとされる。720年に編纂された「日本書紀」とともに、神代から飛鳥時代までの神話と歴史を叙述する。
日本の多くの神様や天皇制の起源等について語られた初めての書物であり、その後の日本の社会や文化に与えた影響は計り知れない。神社へのお参りがちょっと楽しくなる、日本人なら必読の一冊。
【天武天皇が伝えたいこと】
現在の天皇家の祖先である神武天皇は、天と地上を支配するあらゆる神から力を受け継いでおり、この国を支配する正統性を持っている。
事実、神武天皇以降、歴代天皇は善政を敷いてきたではないか。今後も、この国の為政者には天皇家が相応しいのだ。
第58位「韓非子」韓非
【どんな本?】
徳で国家を統治する儒家思想に対し、乱世には徹底した法治主義・信賞必罰が必要と唱える。秦の始皇帝も感銘を受けた非常時のリーダーシップ論。西洋の「君主論」、東洋の「韓非子」とも言われ、両書セットで読むとさらに面白い。
【韓非が伝えたいこと】
儒家は「徳」や「礼」を重視するが、平均的な君主が、打算的で利己的な人々を治めるのが世の常だ。平均的な君主が国を治めるには、法律を整備し、徹底的に臣下の仕事を管理し、権力と地位が維持できる仕組みを確立することが大切だ。
平和で生活水準の低かった古代であれば仁や徳は機能したかもしれないが、今の乱世は食うか食われるかの状況だ。世の中を「善い」とか「悪い」とか判断しても無益であって、力のみが支配する目の前の現実を見なければならない。
第59位「運命を創る」安岡正篤
【どんな本?】
昭和の知の巨匠、安岡正篤が「徳」と「修養」の大切さを説く人間学入門。安岡は昭和の名宰相とされる佐藤栄作首相から、中曽根康弘首相に至るまで、昭和歴代首相の指南役を務めた人物。昭和天皇がラジオで語った「終戦の詔書」に最終的に目を通し、手を入れたのは安岡と言われている。
「大局観を持った教養人」のロールモデルともいえる安岡の代表的著作として必読。本書のほか「活眼活学」「人物を修める」の3冊をまとめて読むと、安岡の思考・思想を網羅的に追体験できる。タイトルは若干怪しげな新興宗教風だが、そのような要素は一切ない。
【安岡正篤が伝えたいこと】
日本人は終戦後、堕落してしまった。徳や大局を忘れ、経済発展のみにひた走っている。人間を人間たらしめている本質的要素は「徳」や「修養」であって、明治以降の近代教育が詰め込んできた「知性」や「技術」は、あればあっただけ良いが、単なる付随的要素でしかない。日本人よ、今こそ徳と大局を見つめ直せ。
第60位「プロフェッショナルの条件」ドラッカー
(ダイヤモンド社)
※自分自身をどうマネジメントするかを考察する一冊
【どんな本?】
現代マネジメント思想の巨人ドラッカーが、これまでの著作から「自己成長」や「自己実現」に関するエッセンスを抜き出し加筆・削除・修正した「ドラッカーによるドラッカー入門書」。
自らの業務範囲を限定した「ジョブ型雇用」が広がり始めた今こそ、ドラッカーの主張する「ゼネラリスト型人間」のあり方にも耳を傾けたい。ドラッカー初心者は、まず「マネジメント」で組織マネジメントの理論的基礎を、本書で自己マネジメントの理論的基礎を学ぶのが一般的。
【ドラッカーが伝えたいこと】
現代は知識社会で、専門知識が価値の源泉になっているが、それらを統合するには人間力全般の向上が欠かせない。目の前の事象を、自らの座標軸の中で正しく位置付けられるようなゼネラリストこそ、この知識社会では必要になる。
そのためにはまず、自己をマネジメントすることだ。常に理想を追い求め、高い志を持ち、自分の強みを特定の分野に集中して成果を出す。最終的には「自分は何によって憶えられたいか」を意識しなければ、人生を無駄にすることになる。
第61位「ガリア戦記」カエサル
(岩波文庫)
※歴史・リーダー論・心理学・語学など、あらゆる観点から必読の古典!
【どんな本?】
ガリア征服戦(BC58-)に関するユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)から元老院への戦況報告。ガリア総督としての戦果・リーダーシップ・正当性を簡潔かつ客観的に綴る。
カエサルの伝記、リーダーシップ実践論、ガリア戦の軍記、ラテン語文章の模範、いずれの側面でも最高クオリティの必読古典。人間臭いカエサルの自尊・興奮・不安・落胆・憔悴・辛抱・諦念・憤怒といった心の動きにも要注目。
【カエサルが伝えたいこと】
ローマの人々よ、ガリア総督に任じられた私(カエサル)は、類まれなるリーダーシップを発揮して、ガリアを平定しているぞ!
第62位「源氏物語」紫式部
【どんな本?】
平安時代中期に紫式部によって書かれた長編小説。全54巻。天皇の子として才能・容姿ともに恵まれながら、臣籍降下して源氏姓となった光源氏を通して、恋愛、繁栄と没落、権力闘争など、平安時代の貴族社会を描く。登場人物は約500人、詠まれる和歌は約800に及ぶ。
それまでの「竹取物語」や「宇津保物語」と比べて、人物描写やプロットの組み立て方等が卓越しており、日本古典文学の最高傑作としての評価が確立している。「11世紀に女性が書いた小説」は世界的にも例がない。海外でも多数翻訳されており、日本人として身に付けておくべき教養の一つ。
【紫式部が伝えたいこと】
人間というものは権力・財産・異性への欲求にまみれているが、自分の為した過ちは、巡り巡って必ず自分に返ってくるし、また仮に望むものを手に入れたとしても、油断するとそれらはすぐに手の中からこぼれていく。
諸行は無常であり、必ず栄枯盛衰を伴う。光源氏の一生とその子孫を見ると、それがよく分かるではないか。
第63位「論語」孔子
【どんな本?】
言わずと知れた古典中の古典。約2500年前の聖人、孔子の教えをまとめた儒教の根本文献。人としての生きる道や、国の政治の在り方について論じられている。
東洋における教養の教科書。後世への影響は計り知れない。東洋人である限り、どのような教養を身に付けるにせよ、「スッタニパータ(ブッダのことば)」と並んで本書は必読。論理や理性を尊ぶ観念的な西洋哲学より、実践を尊ぶ実用的な学問なので、我々東洋人には理解しやすい。
【孔子が伝えたいこと】
世の中が乱れているが、法律や刑罰を厳しく適用するのは対処療法的で抜本解決に繋がらない。時間が掛かってでも、個々人が「徳(人徳・人間力)」と「才(知識・スキル)」を身に付けて行動することが、根本治療に繋がる。
「徳」と「才」の両方を身に付けた人を「君子」と呼び、「才」だけしか身に付けていない人を「小人」と呼ぶ。人は君子を目指すべきである。
第64位「星の王子さま」サン・テグジュペリ
【どんな本?】
全世界で8000万部以上発行されたベストセラー小説。「大切なものは、目に見えない」「大人は最初、誰でも子供だった」というフレーズで有名。故郷の星を離れて地球にやってきた小さな王子さまを通じて、人間同士の絆の大切さを訴える。
「本当に大切なものを大切にしていない」大人達がたくさん登場するので、読者は「自分はそうなっていないか」と自省しながら読むことができる。忙しい日々に疲れた時に、自分を見つめなおすことができる一冊。主人公の王子さまの、少し生意気で、しかしそれで際立つ純真さが強く深く胸を打つ。
【サン・テグジュペリが伝えたいこと】
大人は目の前の「やるべきこと」や「損得勘定」に囚われ過ぎていて、自分にとって本当に大切にすべき人や物事に対して、十分な時間と関心を振り向けられていない。
忙しい大人たちよ、一度立ち止まって、自分にとって何が大切なのかを考えてみるべきではないだろうか。大切なものができると、世界はより美しく、楽しく見え、自分はより幸せになれる。さあ、子供のころの純粋な心を取り戻そう。
第65位「南洲翁遺訓」西郷隆盛
【どんな本?】
西郷隆盛を慕う庄内藩士が、西郷の言行をまとめたもの。西郷は著書を遺さなかったため、結果的に西郷の思想を知るための唯一の書となっている。
あの勝海舟をして「恐ろしいくらいの大人物」と言わしめた西郷隆盛の政治・経済・外交・人生に関する大局観が縦横無尽に展開される。「敬天愛人」はとりわけ有名。視野がぱっと開けるような、読んでいてワクワクする一冊。
【西郷隆盛が伝えたいこと】
正道(正しくて道理のあること)は天が示している。その天を敬い、周囲の人を愛し、自らを謙虚に制御することこそが、人として生きる道である。生きる指針は他者からの評価ではなく、正道に則っているかどうかだ。
第66位「永遠平和のために」カント
(光文社古典新訳文庫)
※”あの”哲学者カントが唱える、リアリズムに基づく平和論
【どんな本?】
「人はどうすれば道徳的に生きられるか」という哲学的命題を、「世の中から戦争をなくすにはどうすればよいか」という政治的命題に拡張した哲学的平和論。
ヨーロッパを代表する大哲学者のカントが、18世紀の時点で、国際連合の設置、諸国家の民主化、自由に人が行き来できる経済圏の創出(=経済のグローバル化)といった現代に通ずる戦争回避策を提示した人類の至宝とも言える一冊。平和論の古典中の古典。
【カントが伝えたいこと】
人間は生来的に争いを好む傾向があるので、この世の中から戦争をなくすことは不可能である。しかし、「永遠平和状態」という理想を想定し、実現に向けて努力することは必要だ。
それは、人間が完全に道徳的であることは不可能だが、道徳的に生きようと努力しなければならないことと同様である。
第67位「氷川清話」勝海舟
【どんな本?】
新聞や雑誌に掲載された勝海舟の談話を、明治25~31年頃に吉本襄(のぼる)がまとめたもの。幕末の大御所勝海舟が、伊藤博文や陸奥宗光等の明治維新の偉人たちを「俺の方がうまくやれる」と上から目線でぶった斬り、大局観を示しまくる、痛快エッセイ集!
【勝海舟が伝えたいこと】
政治に必要なのは至誠奉公の精神だ。明治維新後の政治家にはその精神がなく、嘆かわしい。維新で近代化と言っているが、幕府時代の方が良かったことも多いのではないか。
第68位「ツァラトゥストラはこう言った」ニーチェ
(光文社古典新訳文庫)
※「神は死んだ!」と高らかに宣言するロックで過激な一冊
【どんな本?】
「神は死んだ」のフレーズが特に有名。人間は「神の前での平等」や「隣人愛」等のキリスト教的価値観に囚われることなく、先天的に持つ「力への意志」に基づいて自らの人生を高揚させるべきだと説いたニーチェの代表作。
ニーチェはこの本を「人類への最大の贈り物」「ドイツ語で書かれた最も深遠な作品」と自負し、聖書のような存在になることを企図して、物語風に仕上げたと言われている。確かに、他のニーチェ作品に比べると、かなりカジュアルで読みやすい。
ニーチェを読むなら、まず「善悪の彼岸」でニーチェ哲学の要点を押さえ、その後「ツァラトゥストラ」でその世界に浸り、最後に「この人を見よ」でニーチェ自身とともにニーチェ哲学を振り返るのがオススメ。
【ニーチェが伝えたいこと】
キリスト教の道徳や善悪は、弱き者が強き者を嫉妬した「ルサンチマン」から生まれたものだ。 隣人愛と平等=善、自己愛=悪という構図は人類を無価値な存在とし、「ニヒリズム」に至らせる。
また、世界は永遠に同じことを繰り返しているだけの「永遠回帰」であり、一見するとそこには生きる意味など見いだせない。
しかし、それではダメだ。まず、人生に意味などないということを前向きに受け入れ、いまこの瞬間を肯定しなければならない。そして、より強くなりたいという「力への意志」を貫き、自分の人生を主体的に高揚させる「超人」にならなければいけない。
そうすれば、何度でも自分の人生を繰り返したいと思えるだろう。そして、不幸を含めたあらゆる運命を「自分の意志で望んだのだ」と受け入れられるだろう。
道徳や善悪の基準は、神にも隣人にも教会にもなく、唯一「自分の生が高揚するかしないか」という点にある。人生をどう捉えるか、どう生きるか、すべては自分の意思次第なのだ。
第69位「修身教授録」森信三
【どんな本?】
昭和の名教育者である森信三が、戦前の師範学校で16~17歳の生徒を対象に担当した「修身」の授業録。未来を担う若者に対し、気迫と情熱を持って数々の思慮深い言葉が投げかけられる。
戦後の占領政策で失われてしまった、古き良き日本の道徳教育(仁・義・礼・智など)の雰囲気を感じられる名著。まさに「人間学」の教科書といった趣。
※「修身」とは旧制の学校の道徳に関する教科のこと。英語でいう「Moral Science」で、福澤諭吉が日本語に訳出。福澤著『学問のすすめ』では、「修身学とは身の行いを修め、人に交わり、この世を渡るべき天然の道理を述べたるものなり」と定義されている。
【森信三が伝えたいこと】
人生に二度目はない。自分の力を常に余すところなく発揮し、目の前の仕事に打ち込み、懸命に生きることこそ「修養」である。
病気にしても出会いにしても、自分の制御が及ばない要素は天命として粛々と受け入れ、感謝することが最善の態度である。
第70位「逝きし世の面影」渡辺京二
【どんな本?】
欧米人による記録をもとに、江戸末期の(=欧米化される以前の)日本文明を解き明かすとともに、明治維新と敗戦で日本が失ってきたものの意味を根底から問いただす大作。
「日本本来の文化・習慣とは何なのか」を学びたい人におすすめ。特にグローバルに活躍する上で、自国固有の文化・習慣を学ぶことは必須であり、本書はそのための一級品の記録が並ぶ。日本人が読むからこそ、新鮮な気付きが得られる良書。
【渡辺京二が伝えたいこと】
江戸末期、日本が有機的個性として育んできた一つの文明が滅んだ。欧米化される前の日本人は、のびのびと自由に、礼節を持って、貧富の差も少なく、概ね幸せに暮らしていた。多くの欧米人による記録を紐解くと、客観的にその事実を認識することができる。
第71位「21 Lessons」ハラリ
(河出文庫)
※とにかく面白いテーマが続き、どんどん読める珠玉の一冊
【どんな本?】
『サピエンス全史』で人類の過去を、『ホモデウス』で未来を描いたユヴァル・ノア・ハラリが、ついに現在に焦点を当てる。テクノロジーが急激に発展するいま、私たちは何を考え、何を為すべきか。
21世紀の知の巨人が、歴史・技術・政治・経済等の観点を横断的に俯瞰して将来を予測し、人間の存在意義を問う珠玉の一冊。
【ハラリが伝えたいこと】
AIとバイオテクノロジーとビッグデータの融合により、社会は変化する。大勢の「無用者」が生まれ、データを制する者が富や権力を制し、人間の心は全てアルゴリズムで把握され、説明されるであろう。
これらはグローバルな課題である。宗教やナショナリズムは何の役にも立たない。人間は謙虚に、これらの課題に向き合わなければならない。
これまでの歴史において、人々は宗教やナショナリズムのような「物語」を信じることで、人生の意味を見出してきた。一方、自由意志は生きる意味を自分に求め、仏教は生きる意味を追わないことにした。しかし今後は、アルゴリズムが人間の生化学的反応をすべて把握するようになるだろう。
人類は何に対して生きる意味を見出すのか。人類に残された時間は少ない。
第72位「アメリカの鏡・日本」ミアーズ
(角川ソフィア文庫)
※日本史では決して学べないアメリカの戦略眼。学びの多い一冊
【どんな本?】
アメリカ人の目から見た満州事変~第二次世界大戦(太平洋戦争)の戦略的意義を生々しく語る。
「戦後、米英はソ連の脅威を語るが、ソ連を抑止するための緩衝国家たる満州国を認めず、結果として日本という優秀な同盟国を失ったのは愚策だった」など、日本の歴史教育では決して出会わないアメリカの戦略眼が次々展開される。目から鱗が落ちる、非常に学びの多い一冊。
【ミアーズが伝えたいこと】
第二次世界大戦において、戦勝国は日本を「好戦的で残虐」と裁いたが、その日本が手本としたのは欧米列強である。日本は、欧米列強が世界に進出し、侵略し、収奪した歴史を映す鏡そのものである。
第73位「平家物語」作者不詳
【どんな本?】
平氏の栄華と没落、そして源氏の台頭を主題とした軍記物語。鎌倉時代に原型が完成。「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」の書き出しでも有名。前半では平清盛を中心とした平家の興隆と繁栄、後半では平家の都落ちと壇之浦での敗戦・滅亡までが描かれる。
よく「平家物語は軍記もの」「源氏物語は宮廷もの」と区別されるが、どちらも「栄華に驕れる者の没落」「因果応報」「無常観」といった仏教的要素が通奏低音として流れており、日本人としてはどちらも読んでおきたい古典の傑作。
【本書が伝えたいこと】
あれだけ繫栄した平氏も、権力や奢侈に溺れてしまい、数十年で滅亡することになった。源氏側でさえ、義仲や義経のように、その権力に驕った者は落ちぶれていった。
世の中に永遠などなく、常に変化し続ける。源平合戦はそのような世の道理をよく表している。
第74位「この人を見よ」ニーチェ
(光文社古典新訳文庫)
※ニーチェ著作の中では比較的読みやすいことで有名な一冊
【どんな本?】
「神は死んだ!」とキリスト教を全面否定し、「生の高揚」という新しい道徳を説いたことで知られるニーチェが、発狂寸前に完成させた自伝。
自身の著作を総括するため、ニーチェ哲学の全体像を掴むには最適の一冊。ニーチェに関心を持ったら、まず「善悪の彼岸」でニーチェ哲学の要点を押さえ、その後「ツァラトゥストラ」でその世界に浸り、最後に「この人を見よ」でニーチェ自身とともにニーチェ哲学全体を振り返るのがオススメ。
なお、書名の「この人を見よ(Ecce homo)」は、ヨハネによる福音書からの引用。ローマ帝国のユダヤ総督ピラトが、処刑前のイエス・キリストを嘲笑するユダヤ人たちに向けて言った言葉。
【ニーチェが伝えたいこと】
私は「キリスト教の道徳を破壊し、新しい価値観を提示する」という人類史上最大級の仕事をやってのけた。しかし、世の中の理解がまだ追いついていない。私が独創的過ぎたのだ。
平等や隣人愛を求めるのは自分が弱者である証拠だ。それを賛美してどうする。利他の精神は美しいが、自分はどこへいったのだ。あなたはどうやって生きたいのか。
自分の人生が何度繰り返されることになっても、それでもなお自分の人生を選べるように、自分の人生にイエスと言えるように生きなければならない。それこそが救済である。
ああ、私の言っていることは理解されているだろうか。
第75位「老子」「荘子」老子・荘子
【どんな本?】
「上り坂の儒家、下り坂の老荘」のとおり、何事にも「前向き&改善」を志向する儒家に対して、何にも執着せず、とにかく自然のあるがままの姿であることを説く。
良い政治の序列は「無為(道家)>仁徳(儒家)>恐怖(法家)」とされており、それぞれに対応する「老子・荘子」「論語」「韓非子」を読み比べるとさらに理解が深まる。老子・荘子の神髄は「般若心経」にも通ずる。
【老子・荘子が伝えたいこと】
人間は自ら苦しみを生み出す存在である。あらゆる人為を捨て、自然のあるがままに、つまり無為自然に生きることが最善の道だ。
世界における万物の相違などは意味を持たない。あらゆるものは、それが存在する以上、存在する理由と価値があるのだ。
「大言壮語はするが実用性に乏しく、現実味がない」と批判されることもあるが、それは我々の思想が高邁過ぎて凡人には理解できないだけだ。