【人事部長の教養100冊】
「原因と結果の法則」
ジェイムズ・アレン

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原因と結果の法則(表紙)

「原因と結果の法則」
ジェイムズ・アレン

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基本情報

初版   1903年
出版社  角川出版、サンマーク出版
難易度  ★★☆☆☆
オススメ度★★★☆☆
ページ数 112ページ
所要時間 1時間30分

どんな本?

いわゆる「自己啓発本」の古典中の古典。「私たちの人生は、すべて私たちの思考や心の持ちようの結果である。まずは自分が変わりなさい」という内容を、科学的というよりは、ややスピリチュアルな語り口で説く。後世の自己啓発本に大きな影響を与えた。

「人生に偶然は一切なく、全てが必然である」といったあたりは、やや原理主義的で、アレルギー反応を起こす人がいるかもしれないが、「すべては自分次第」というメッセージは分かりやすく、現代まで読まれ続けている理由となっている。

著者が伝えたいこと

私たちの思考や言動の在り方(=原因)が、私たちの人生や周囲の環境(=結果)を生み出す。この因果関係は100%確実である。この法則を理解すれば、周囲への不平や嫉妬はなくなり、心に平和が訪れる。それこそが、人生の究極の目的である。

著者

ジェイムズ・アレン
James Allen
1864年-1912年

イギリスの作家。労働者階級の家に生まれる。父が15歳の時に他界したため、学校を退学して働き始める。いくつかの職を経験するが、34歳の時に雑誌への寄稿で生計を立て始める。

その後38歳から、トルストイの影響で著作活動に専念し、2作目である本書「原因と結果の法則」が最大のベストセラーとなった。1912年に亡くなるまでに19の作品を残している。

こんな人にオススメ

周囲からの影響を受けて疲れやすい人、誰かに励ましてほしい人

書評

本書の原題は “As a man thinketh”。これは旧約聖書『箴言』の “as a man thinketh in his heart, so is he”(人は、心の中で思考したとおりになる)から来ており、原題の方が邦題よりも内容を的確に表している。本書ではこのテーマを、手を変え品を変え、しつこいくらい繰り返す。

また、原題からも分かるように、本書はやや宗教的でスピリチュアルな側面を持っているものの、さすが世界的に読み継がれているだけあって、怪しげな側面は一切ない。

なお、サンマーク出版では「原因と結果の法則」という書名で4巻まで販売されているが、世界的に著名な「原因と結果の法則」は第1巻のみで、第2~4巻はアレンの全く別の著作であるので要注意。

ジェイムズ・アレン
(角川文庫)

※読後には「全ては自分次第」「他責思考はやめよう」と思える自己啓発本の古典

要約・あらすじ

第1章 思考と人格

■人は自分の思っているとおりの自分になる。この原因と結果の法則は揺るがない。健全で高貴な思考は健全で高貴な人格を生むし、逆もまた然りである。人は自分の思考の主人であり、自分の人格・人生・運命の形成者なのだ。

第2章 環境に対する思考の影響

■人生に「偶然」という要素は一切なく、全てにおいて「自分自身の思考」という原因がある。人生だけでなく、周囲の環境も、思考の持ち方によって変化する。つまり、私たちの思考は、それが密かに思っていることを引き寄せる力を持っているのだ。

■世の中に犯罪者や貧乏人はいるが、それは生まれや育ちの環境とは全く無関係であって、卑屈な考えや浅ましい欲望が原因である。環境が人間を作るのではなく、私たちの思考の在り方が人生や環境に現れるのである。例えば以下のようなことである。

思考→→人生→→環境
動物的思い飲酒・肉欲貧しさ・病気
不純な思い気力なき混乱不愉快
恐怖・疑い臆病・優柔不断失敗・貧困
怠惰不潔・不正直堕落・貧困
意地悪非難・暴力怪我・虐待
利己心身勝手悲惨
思考→→人生→→環境
気高い思い慈愛・親切優しさ・明るさ
勇気・決断力能力発揮成功・自由
活気清潔・勤勉喜び
寛容優しさ安全・安心
奉仕的繁栄・豊かさ

第3章 健康に対する思考の影響

■病気や健康も、私たちの心の持ちよう、つまり思考の結果である。恐れや心配は神経組織を破壊し、逆に強くて幸せな思いは、活力ある肉体を創る。

第4章 思いと目的

■人は目的を持って生きるべきだ。目標が無いと、小さいことを心配したり、不必要に恐れたりするようになる。肉体の弱い者が忍耐強くトレーニングするのと同様に、私たちは明確な目標を持ってそれに突き進むことで、心を鍛えなければならない。

第5章 思いと成功

■私たちは自分の思考を正しく制御しなければならない。自分の動物的な欲望を抑制し、目標に向かって邁進し、自信を持つことで初めて成功できる。

第6章 ビジョンと高邁な目的

■私たちはビジョン(理想)を大切にしなければならない。偉大な成功も、最初は小さな夢想に過ぎない。富を築いた人や知性に溢れる人は、運がよかったのではなく、見えないところで多くの試練や失敗に立ち向かい、理想を追ってきたのだ。宇宙の法則は決して努力を裏切らない。

第7章 平和な心

■「原因と結果の法則」を理解すれば、周囲に不平を言ったり嫉妬したりすることから解放され、心が平和になる。平和な人間は自己を制御し、周囲に合わせられるので、人から敬られる。つまり人間は平和になればなるほど成功し、影響力を持つようになる。

■心の平和という貴重な人格を身に付けることは、私たちの人生の究極の目標なのである。

学びのポイント

あらゆるものに原因がある

全ての人は「宇宙の存在の法則」によって、あるべきところに存在しています。その人の性格を形成した思考が、あるべき場所に彼をつれてきたのです。

しかも、人生には偶然という要素は一切ありません。全ては間違いのない法則の結果なのです。

タイトルどおり、本書は徹底して「全ては必然であり、あらゆるものに原因がある」としている。非常に原理主義的ではあるが、メッセージとしてはシンプルで分かりやすい。

つまり、人生は100%自分次第なのだから、仮に上手くいかなかったとしても、100%自分に責任があるのであって、他の何も責めることはできないということだ。

しかし、ここで注意すべきは「人生は必然だから、努力してもムダ」と考えてはいけないことだ。アレンの言う「必然」は全く逆で、「自分自身の在り方の結果が、必然的に人生に現れる」ということを言っている。

ちなみに「人生における必然と偶然」については、京都学派の哲学者である三木清が著書『人生論ノート』でこんなことを言っている。

三木清
三木清

人生においては何事も偶然である。しかしまた人生においては何事も必然である。このような人生を我々は運命と称している。(中略)

希望は運命のごときものである。それはいわば運命というものの符号を逆にしたものである。もし一切が必然であるなら希望というものはあり得ないであろう。しかし一切が偶然であるなら希望というものはまたあり得ないであろう。

三木の言う「必然」は「自分ではどうにもならないこと」という意味なので、アレンとは使い方が異なるが、普通に考えれば人生は「全て必然」と「全て偶然」の中間にあると言えるだろう。

宇宙の原理原則

この宇宙を支配している原理は混乱ではなく秩序です。魂と命の本質は不公正ではなく公正です。霊的な世界を形成し、動かしているのは不正ではなく正義です。

だからこそ、宇宙は公正であることを理解するために、人は自分自身を正すことが必要です。そして、自分自身を正すプロセスを行っているうちに、物事や他人に対する自分の考え方が変わるにしたがって、物事や他の人々の自分に対する態度も違ってくるのを体験するでしょう。

この「宇宙は秩序・公正・正義といった道理があり、人間もそれに従うべきだ」という考え方は、古今東西、哲学者から実業家に至るまで、実に多くの人によって大切にされてきた。

もちろん全てを網羅できないが、古代ローマの皇帝・哲学者、幕末期の名士2名、日本の哲学者、そして昭和の大経営者2名の計6名を紹介したい。

マルクス・アウレリウス・アントニヌス
マルクス・アウレリウス・アントニヌス

神々のわざは摂理にみちており、運命のわざは自然を離れては存在せず、また摂理に支配される事柄とも織り合わされ、組み合わされずにはいない

マルクス・アウレリウス・アントニヌス「自省録」

佐藤一斎
佐藤一斎

最上の人は宇宙の真理を師とし、二番目の人は立派な人を師とし、三番目の人は経典を師とする。

佐藤一斎「言志四録」

西郷隆盛
西郷隆盛

人が行くべき道は、天から与えられた道理を守る、すなわち天を敬うということだ。また、(人は天より生まれたものであるから)周囲の人を愛さなければならない。そのためには身を修め、常に意志の力で自分の衝動や欲望を制御する、つまり己に克たなければならない。

西郷隆盛「南洲翁遺訓」

西田幾太郎
西田幾太郎

道徳のことは自己の外にあるものを求むるのではない、ただ自己にあるものを見出すのである。(中略)

我々の真の自己は宇宙の本体である、真の自己を知ればただに人類一般の善と合するばかりでなく、宇宙の本体と融合し神意と冥合するのである。宗教も道徳も実にここに尽きている。

西田幾多郎『善の研究』

松下幸之助
松下幸之助

人間の繁栄は、全て宇宙の秩序に基づいて与えられるものであります。この秩序に従って生きることが大義であります。

松下幸之助「松下幸之助の哲学」

稲盛和夫
稲盛和夫

宇宙を貫く意志は愛と誠と調和に満ちており、すべてのものに平等に働き、宇宙全体をよい方向に導き、成長発展させようとしている。

稲盛和夫「生き方」

当然ながら、「宇宙や天の法則」があるかどうかは分からない。それを信じるか否かは宗教の世界とも言える。

しかしながら、アメリカ的なプラグマティズム(=現実世界で役に立つ考え方こそが真理であるとする)からすれば、「宇宙や天の法則」を信じることによって、充実した人生が送れていると自分自身が思えるのであれば、それが真か偽かはどうでもよく、素直に信じればいいだけということになるだろう。

思考は現実化する

思考と目的が結びついていないと、明確に物事を達成することはできません。思考が目標と恐れを持たずに結びついたとき、それは創造の力となります。

(そして)「私達はできる」という事を知っていれば、やってみようという気持ちがわき上がります。

第4章思いと目的より抜粋

この「目標を明確化し、思考と結びつける」という方法は、後世の自己啓発本に多大なる影響を与えた。アレンに遅れること約30年、アメリカのナポレオン・ヒルは著書『思考は現実化する』で、以下のように方法論を体系化している。

【ゴールデンルール1 目標を明確化する】

①願望を明確化する
②それに伴う代償を明確化する
③最終期限を決める
④プロセスを明確化する
⑤以上を紙に書く
⑥1日2回、声に出して読む

思考というものは、一つの実体、しかもその思考内容そのものを現実化しようとする衝動を秘めている実体と言ってもよい。それは強力なエネルギーを持っている。

ナポレオン・ヒルは、アレンの言っている「思考」を、上記①~⑥のステップに具体化した。思考のステップ踏むことによって、ゴールとそこに至るプロセスが自分の中で具体的にイメージできるようになり、ゴールに向けてスムーズに進むことが出来るようになる、ということである。

また同時に、ヒルの方法論は、人間の脳は理想と現実を見分けるのが苦手であるという性質を利用して、ゴールに向けてスムーズに進んでいる理想の自分を脳に刻み込み、現実の世界でもそれを実現するという「イメージトレーニング」にもなっている。

事実、頭の中である運動をイメージしただけで、その動作に関係している筋肉群が反応したり、口に出さずに言葉を思い浮かべただけで、しゃべる運動を司る脳部位が活動したりすることが、科学的に立証されている。

古今東西、様々な人がこの「目標を明確化する」ルールを実践しているが、ビジネスの世界では京セラの創業者である稲盛和夫さん(再登場!)が著書『生き方』でこんなことを仰っているので、ご紹介したい。

・物事成就の母体は強烈な願望である。

・思い、考え、練っていくことをしつようにくり返していると、成功への道筋があたかも一度通った道であるかのように「見えて」きます。

・しかも、それが白黒で見えるうちはまだ不十分で、より現実に近くカラーで見えてくる――そんな状態がリアルに起こってくるものなのです。

・逆にいえば、そういう完成形がくっきりと見えるようになるまで、事前に物事を強く思い、深く考え、真剣に取り組まなくては、創造的な仕事や人生での成功はおぼつかないということです。

稲盛和夫『生き方』第1章より抜粋

また、2000年頃に日本でも大ヒットした『チーズはどこへ消えた?』では、同じことが以下のように表現されている。

事態が一層よくなるように、ホーはもう一度、心の中でイメージした。チェダーからブリーまで(!)、自分の好きなあらゆるチーズの山に囲まれた自分の姿を、細かいところまで思い描いたのだ。好きなチーズをあれこれ食べているところも想像して、楽しんだ。こんなふうに多くのものを味わえたらどんなに愉快だろう。(中略)

まだ新しいチーズが見つかっていなくても、そのチーズを楽しんでいる自分を想像すればそれが実現する。

どれもこれも、アレンのいう「思考と目標を結びつける」という作業を実践していますね。

人事部長のつぶやき

人付き合いでは見た目も大切

暗い表情は偶然の産物ではありません。暗い思いや心の持ち方によって作られます。

個人的にはこの一節にドキリとしてしまいました。確かに何か心配事があったり、悩みを抱えていたりすると、それはすぐに表情に出ます。それが長く続くと、暗い表情が固定化されてしまうかもしれません。

一方、人間は社会的な生き物ですから、普段から様々な人と接する必要があります。その時に暗い顔をしていたら、、、周囲からは歓迎されませんし、良いチャンスが巡ってきそうにもありませんね。

これについて、福澤諭吉はこんなことを言っています。

福澤諭吉
福澤諭吉

表情や見た目が快活で愉快なのは、人間にとって徳の一つであって、人付き合いの上で最も大切なことである。

福澤諭吉『学問のすすめ』

そのままズバリ、ですね!

ジェイムズ・アレン
(角川文庫)

※読後には「全ては自分次第」「他責思考はやめよう」と思える自己啓発本の古典