【人事部長の教養100冊】
超入門「失敗の本質」鈴木博毅

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超入門失敗の本質(表紙)

超入門「失敗の本質」
鈴木博毅

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基本情報

初版   2012年
出版社  ダイヤモンド社
難易度  ★★☆☆☆
オススメ度★★★☆☆
ページ数 248ページ
所要時間 3時間00分

どんな本?

歴史的名著「失敗の本質~日本軍の組織論的研究~」の入門編。太平洋戦争開戦後の日本の「戦い方」を対象として、組織としての日本軍の失敗を分析する。

「ゲームのルールを変える主体」vs「既存の土俵で戦い続ける主体」の構図は、ビジネスにもそのまま当てはまる普遍性あり。

著者が伝えたいこと

旧日本軍が太平洋戦争に負けた主要因は、次のような点である。

・大戦略が欠如していた

・既存の枠組みにとらわれ、ルールチェンジに対応できなかった

・空気を読みあうような硬直的な組織だった

・大本営と現場の距離が遠かった

著者

鈴木すずき博毅ひろき 1972-

鈴木博毅

マーケティングコンサルタント。慶應義塾大学総合政策学部卒。貿易商社にてカナダ・オーストラリアの資源輸入業務に従事。その後国内コンサルティング会社に勤務し、2001年に独立。

『戦略の教室』(以上、ダイヤモンド社)、『実践版 孫子の兵法』(プレジデント社)など著書多数。

こんな人におすすめ

日本が太平洋戦争に負けた「戦術面」の過ちを知り、企業や団体の運営に活かしたい人。テレ朝系「しくじり先生」が好きな人。

鈴木博毅
ダイヤモンド社

※失敗の歴史から日本人は何を学ぶのか

要約・あらすじ

第1章「戦略性」~戦術ではなく戦略で勝つ~

■戦略を誤ると、いくら優れた戦術を駆使しても勝負には勝てない。石原莞爾の大戦略は「総力戦を勝ち抜くための国力・生産補給力」で、当時の日本軍の大戦略は「決戦に勝つための、戦場での一大勝利」だった。それに伴う石原の戦術は「産業発展」、日本軍の戦術は「白兵銃剣主義」「艦隊決戦戦術」であり、残念ながら日本軍の戦略・戦術ではアメリカに勝てなかった。

■大きな戦略さえ合っていれば、個別の戦術でいくつかの過ちがあっても構わない。ミッドウェー海戦では、日本軍は全般的に優勢で、米軍は苦戦することも多かったが、「空母の撃沈」「主要島の奪取」という特に重要な戦術を押えたことにより、米軍は最短距離で所期の目的を達した。

第2章「思考法」~仕組みを変更して勝つ~

■日本人は基本的にブレイク・スルーを生みだすことよりも、一つのアイデアを洗練させることに適している。自動車・家電・半導体等、製品ライフサイクルの成長後期以後で日本企業が強みを発揮するのは、このためである。

■しかし、ルール変更にはめっぽう弱い。戦争中、日本軍がパイロット自身の命中技術向上や、夜間視力の向上に取り組む中、アメリカ軍は命中率が低くても追撃できる砲弾やレーダーの開発に勤しんでいた。

■ゲームの基本となる「プラットフォーム」や「ビジネスモデル」を変更できる者が、勝利を掴むのである。

日本軍vsアメリカ軍

第3章「イノベーション」~非連続の思考で勝つ~

■技術進歩だけでは、イノベーションは生まれない。「現在の枠組み」を前提として対策を考えるのではなく、枠組み自体を変更することでイノベーションは生まれる。

■携帯音楽端末を例にすれば、記憶容量を増し、軽量化したソニーの戦略は「現在の枠組み」の延長線、iTunesというソフトと融合させたAppleの戦略が「枠組み変更」にあたる。

第4章「型の伝承」~過去に固執せずに勝つ~

■成功体験は勝利を妨げる。日本軍は過去の戦い方に固執してしまい、例えばレーダーは開発が進んでいたにも関わらず、上層部の理解が得られず、積極的に採用されることはなかった。

■日本人と日本組織の中には、過去に発見されたイノベーションを戦略思想化し、「虎の巻」としたい欲求が存在する。何を目指すかと同時に、「何を捨てるか」を考えなければ、時代に取り残されることになる。

第5章「組織運営」~現場を活かして勝つ~

■日本軍の上層部、作戦立案担当者は「現場を活かす」ことが徹底的に不得手だった。現場を押さえつける「権威主義」と、現場の専門家の意見を聞かない「傲慢さ」が跋扈していた。

■一方のアメリカ軍は、現場の自主性・独立性を尊重し、現場からの意見を積極採用し、研究開発等に取り入れていった。また、最前線と参謀間で1年おきに人事異動を行い、巨大組織の中の距離感を縮めるよう努力した。

■日本軍の人事は硬直的で、結果ではなくプロセスを重視した。一方のアメリカ軍は結果を重視するとともに、昇格にあたっては審査委員会を設け、選定プロセスを透明化し、適材適所と組織の活力維持の双方を実現した。

第6章「リーダーシップ」~優れたリーダーを生み出して勝つ~

■太平洋戦争の敗北から帰納できる無能なリーダー像は以下3つである。

①自分が信じたいことを補強してくれる事実だけを見る

②他人の能力を信じず、理解する姿勢がない

③階級の上下を超えて、他者の視点を活用することを知らない

■安定した組織は変化に弱い。旧日本軍は思索せず、読書せず、上司に反論せず、誰からも批判されず、権威の偶像となった。組織には、以下のような方法で常に緊張感を与えなければならない。

①「勝利の条件」を上手く演出できるリーダーの洞察力

②異質な情報・知識の交流

③ヒトの抜擢などによる権力構造のたえざる均衡

第7章「メンタリティ」~「空気」を打破して勝つ~

■日本人には「空気」という概念がある。旧日本軍内でも、合理的な判断ではなく、空気が示した結論に対して反駁できない状況が繰り返された。軍事的には無謀であった「大和」の沖縄出撃について、小沢治三郎中将は「全般の空気よりして、当時も今日も特攻出撃は当然と思う」と述べている。

■日本軍の内部では「都合の悪い情報を封殺して無視する」「希望的観測に心理的に依存していく」というグループ・シンク(集団浅慮)の状態に陥っていたと考えられる。方向転換を妨げる要素としては、以下4つが挙げられる。

■旧日本軍も現在の日本企業も「コンティンジェンシー・プラン(万が一を想定した計画)」の策定が苦手である。旧日本軍は「暗号が解読されているかもしれない」「空母に爆弾が当たるかもしれない」という当然考慮されるべきリスクから目を背けていた。対する米軍は、リスクを正確に開示し、意識を向けさせることで、徹底的に予防に繋げていた。

学びのポイント

どちらの戦略も誤っていた

石原莞爾の戦略=国力と生産補給力で勝敗が決まる

旧日本軍の戦略=どこかの戦場で大勝利すれば勝敗が決まる

石原は「国力、生産補給力」を追いかける構想を練っており、日本軍は「戦場での一大勝利」を追いかける構想を持っていた。

本書の記載は、石原の戦略が正しく、旧日本軍の戦略が誤っていたかのようにも読めるが、実際はどちらも誤っていた。

経済評論家加谷珪一さんの試算によると、当時の日米の国力差は、GDPで約7倍、鉄鋼の生産能力で約12倍、自動車の生産台数で100倍以上、発電量で約5倍という状況であった。(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57013?page=2)

これでは国力の差を埋めることは現実的ではない。石原の戦略も、机上の理論としては正しいが、甚だ現実を無視したものだった。一方、旧日本軍の戦略が機能しなかったことは、歴史が証明している。

では、何が正しかったのか。もちろん「後出しじゃんけん」になってしまうが、満州に固執して、アメリカと戦争に入ったこと自体が誤りだったのであって、当時の世界情勢を見れば、日本は満州を「解放」すべきであった。

海洋国家である日本が、大陸国家になろうとしてはいけなかったし、同じ海洋国家であるアメリカに対抗したのも地政学的に誤りだった。

もちろん、日本が10年以上、満州に費やした資源を考えると、引くに引けなかったという事情がある。東條陸軍大臣は「支那大陸で生命を捧げた尊い英霊に対し、申し訳が立たない」という趣旨の内容を閣議で発言している。

しかし、日清・日露以来の英霊20万人は、満州から撤退しようがしまいが、返ってこない。「日本がアメリカと戦争した場合にどうなるか」を冷静に考えなければならなかった。英霊20万人をサンクコスト(埋没費用)と割り切れなかった結果、日本はアメリカに敗れ、民間人を含む310万人の犠牲者を出してしまった。ここは、「理性>感情」であるべきだった。

では何故、日本は軍部の独走を止められなかったのか。これは、大日本帝国憲法下においては、

①内閣(陸海大臣)には陸海軍の指揮権がない

②天皇は「君臨すれども統治せず」という立場にあったため、陸海軍の指揮権を行使することはない

ことから、軍部の独走を許してしまう欠陥的構造があったためと言える。

悪い意味で真面目すぎる日本人

アメリカ軍 日本軍
新戦闘機の開発でカバー操縦技能訓練で高める
新砲弾の開発でカバー命中精度訓練で高める
レーダーの開発でカバー夜間視力訓練で高める

これは日本人の特性だろうが、とにかく精神論重視で、戦時中は「神業」の域まで技術・技能の向上が図られたという。一方のアメリカは、人間の能力には限界があることや、技術・技能の向上にかかるコスト等を現実的&合理的に判断している。

アメリカ軍側が途中で「ゲームのルールを変えた」ことで、勝利につながる要素も変化したにも関わらず、日本軍は相変わらずの精神論を継続していた。

「人でカバーできるケース」と「環境を変えなければならないケース」は明確に分けて考えなければならない、ということだろう。

皆さんの勤める会社でも、こういった事例は多いのではないだろうか。残業が多いなら、何かをシステム化するとか止めることを考える必要がある。社員の遅刻が多いなら、指導・教育ではなく、ペナルティを与えるようなことを考えたほうが良いだろう。

イノベーションは正・反・合から生まれる

イノベーションはダブル・ループ思考からしか生まれない。

「シングル・ループ思考」
目標や問題の基本構造が変化しないことを前提とした対応法

「ダブル・ループ思考」
想定した目標と問題自体を変えられないかという検討を含めた対応法

夜間にいかに早く敵艦を発見するかという問題に対し、「人間による確認」という基本構造を前提とすれば、「夜間視力を高める訓練を行う」ことが対策になる。

しかし、基本構造を疑問視し、「人間以外で確認できないか」という検討を含めれば、「レーダーを開発する」という対策に行きつく。

なお、この思考法は、ヘーゲルの弁証法と同じように理解できる。

ヘーゲル弁証法

https://www.yuulinux.tokyo/6757/

ヘーゲルの弁証法

①テーゼ(命題)が提示される【正】

②「①」と矛盾するアンチテーゼ(反命題)が提示される【反】

③「①と②」の矛盾を解決するジンテーゼ(統合案)が提示される【合】

今回の例の場合で言えば、「夜間にいかに早く敵艦を発見するか」という命題が「正」、それに対する従来の対応方法が「夜間視力を高める(が、人間の能力には限界があるという矛盾を抱えている)」という「反」、その既存の枠組みを壊すのが「レーダーを開発する」という「合」である。

「正」と「反」の世界(シングル・ループ)では、抜本的解決方法もイノベーションも生まれない。「合」をいかに生み出すかが重要である。欧米の知識層であればヘーゲル弁証法は常識の一つだが、日本人には馴染みが薄い。

日本人がグローバルのイノベーション合戦で分が悪いのは、この種の哲学的思考の弱さに起因しているのかもしれない。

餅は餅屋

(アメリカ軍では、戦時中のレーダーの開発について)研究との評価については、もっぱら我々科学者が担当し、軍人はこれにまったく関与しなかった。

研究所は海軍の管轄下にあったが、研究については軍人よりも科学者のほうが通暁していることを認めて、民間人である科学者にまかせていた。

(『電子兵器「カミカゼ」を制す』)

アメリカ軍は研究は研究者に任せ、軍部と研究者は共に勝利を目指す対等の立場で活発な議論を繰り返した。

対する日本は、そもそも軍部がレーダーに関心を示さず、軍部は戦場からも研究からも乖離する一方だった。

この「餅は餅屋」という考え方は、何でもかんでも内製化しようとする(=自前で何とかしようとする傾向の強い)企業には参考になるのではないか。

特に大企業はプライドなのか何なのか、経営コンサルやITコンサルを起用しない企業も多いと聞く。広告代理店を起用する際も、大きな方針だけ示して細部は任せる企業と、細かい点まで注文を付けて、クリエーターを「ダサいけど、クライアントの意向だし・・・」と悩ませるケースもあるだろう。

ちなみに1970年代に国鉄(日本国有鉄道、現在のJRの前身)が、個人旅行拡大のために始めたキャンペーン「ディスカバー・ジャパン」では、「餅は餅屋」を徹底し、国鉄は一切口を出さず、何から何まで電通に任せて大成功したという。

ディスカバー・ジャパン
確かに国鉄の官僚では、このような(当時としては)斬新なキャンペーンは打てなかったであろう。

悪いリーダーとは

悪いリーダーは以下のような特徴を持つ。

・自分が信じたいことを補強してくれる事実だけを見る

・他人の能力を信じず、理解する姿勢がない

・階級の上下を超えて、他者の視点を活用することを知らない

結果として「何を言っても無駄、こちらからいい意見を出すのはやめよう」と思われる。リーダーは常に「私自身が、組織の限界となっているのではないか」と自問することが求められる。

(趣旨要約)

どんな案件を持って行っても、聞こえの良いことばかりを受け入れ、都合の悪い話は聞こうとしない、聞いたとしてもとにかくネガティブに反応する、上層部の意見や自分の経験からしか物事を見ない・・・このようなリーダーはどの組織にも必ずいるだろう。

人の能力を変えることはできないので、重要なのは、このような悪いリーダーを組織が放逐できるか否かだ。残念ながら日本軍にはその自浄能力がなかった。

ノモンハン事件で多数の日本兵を犠牲にした辻政信参謀はその後中央に返り咲き、無謀極まりないインパール作戦を主導&実施した牟田口廉也中将は、のちに陸軍予科士官学校の校長に任命されることになる。

現代日本でも、国務大臣の任命にあたっては当選回数が重視される。2019年9月第四次安倍再改造内閣で誕生した科学技術・IT担当大臣は、台湾との対比で、Twitter界隈を賑わせたことは記憶に新しい。この国は相変わらず、適材適所ができないのだろうか。

日本 竹本直一(78歳)スマホでSNS投稿できる

 

台湾 オードリー・タン(38歳)天才プログラマー

人事部長のつぶやき

日本人はゲームチェンジが苦手

「ゲームのルールを変えた者だけが勝つ」

これはIBMのサミュエル・パルミサーノ会長が使うプレゼンテーション資料に書かれている言葉です。

これは、けだし名言である。日本人は小さな改善を積み重ねることは得意だが、劇的な変化を生み出す力が弱い。

これは大規模なビジネスや戦争だけでなく、日常生活にも応用できる考え方だろう。子供が言うことを聞かないなら、何らかのインセンティブが持てるような仕組みを作ったり、社員にやる気がないなら、やる気のない社員が白い目で見られるような何らかのペナルティを与えるような仕組みを考えればよい。

人は自らでは変わらないので、環境を変えて変化を促すということですね

書評

著者の頭の中があまり整理されていないのか、本書では内容に重複や濃淡が見られる。

例えば第3章と第4章は同じく「既存の枠組みからの脱却」という話をしているし、第4章以降は、一章一章の内容が極端に薄くなる。そして第5章と第6章の内容も「現場が大事」という点で重複している。もう少ししっかり作りこんでほしいものだ。

やはり原典(失敗の本質)を読むのが一番と言うことではあるが、エッセンスを理解するための最低限の要素は備えているため、読んで無駄にはならないでしょう。

鈴木博毅
ダイヤモンド社

※失敗の歴史から日本人は何を学ぶのか