【人事部長の教養100冊】
「人を動かす」
デール・カーネギー

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人を動かす(表紙)

「人を動かす」
デール・カーネギー

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基本情報

初版   1937年(日米同年)
出版社  創元社
難易度  ★☆☆☆☆
オススメ度★★★★★
ページ数 320ページ
所要時間 3時間30分

どんな本?

対人関係を好転させるための具体的なテクニックがふんだんに詰まった世界的大ベストセラー。どれも、コストを掛けず直ぐに実践できる点が人気の理由。

「人との上手な付き合い方」ジャンルの最高峰であり不朽の名著。「何となく頭では分かっているけど、意外と実践できていない」対人関係スキルが、気持ちいいほど見事に可視化されている名著。全人類がこれを読めば、お互いに気持ちよく暮らせるようになる(はず)と思わせる一冊。

著者が伝えたいこと

対人関係は、日頃からの心掛けといくつかのテクニックで必ず好転する。知っている人と知らない人では大違いだ。

対人関係の基本は、相手を尊敬すること、そしてそれを態度や言葉で示すことであり、それらは自分の利益として必ず返ってくる。

著者

デール・カーネギー
Dale Carnegie
1888-1955

デール・カーネギー

ミズーリ州出身。「デール・カーネギー研究所」所長。対人スキルコンサルタント。

大学卒業後、教師・セールスマン・食肉会社社員等を経験。その後、大学で学んだ弁論術を活かし、YMCA弁論術講座を担当。

同講座の教材とするために、新聞、雑誌、心理学書、哲学書など、人間関係に関連のある書物を片っ端から調査するとともに、ルーズベルト等の著名人にもインタビューし、「人を動かす」方法論を確立する。

こんな人におすすめ

とにかく全人類にオススメの一冊。良好な人間関係を構築することで自らを幸せにしたい人、新社会人、これから部下を持つ管理職には特にオススメ。

書評

観念的な説明より、実例を多数挙げて、実際の行動(褒める、笑顔を見せる、傾聴する、相手のメンツを潰さないなど)を促すことに重点が置かれているので、非常に分かりやすい読み物になっている。

体系立てて論理が積み上げられているわけではなく、筆者が重要と思うことを項目別に大きく分けて書き進めているので、話題の重複・反復は比較的多い。読者はどこから読んでも構わない。

古今東西の「人を動かした」小話を集めて分類しただけではあるが、非常に豊富で秀逸な事例が集められているので、価値を持つに至った本。創造性がなくても、世の中の役に立つ方法があることを端的に示した好事例でもある。

デール・カーネギー
(創元社)

※人類全員が本書を読めば、人間関係ストレスがなくなる(はず)

要約・あらすじ

人を動かす三原則

1.相手の短所や失敗を責めない

誰でも自分が正しいと思っている。理詰めでやっつけても逆恨みされるだけだ。人を非難する代わりに、相手を理解するように努めたほうがいい。なぜ相手が失敗したり不都合なことをしでかしたのか、それを考えるべきだ。

2.相手を褒め、存在に感謝する

人間の持つ社会的欲求で最も強いものは、他人に認められたいと思う気持ちである。それを満たすには、褒めたり感謝したりすればよい。深い思いやりから出る感謝の言葉を振りまきながら日々を過ごすことで、相手に重要感を与えられる。

3.相手に欲求を起こさせる

「どうすれば、そうしたくなる気持ちを相手に起こさせることができるか」を考えるべきだ。そのためには、その人の利益が何かを理解しなければならない。例えば保育園に行きたがらない子供には、保育園に行かないと楽しい遊びができないことを理解させればよい。

人に好かれる六原則

1.誠実な関心を寄せる

友を得るには、相手の関心を引こうとするよりも、相手に純粋な関心を寄せることが重要だ。ローマ時代の詩人がこう言っている。「我々は、自分に関心を寄せてくれる人々に関心を寄せる」と。

2.常に笑顔を忘れない

笑顔は自分も周囲も幸福にする。幸福だから笑顔になるのではなく、笑顔だから幸福になるのだ。笑顔は受け取る人々の生活を明るくし、自分自身をも快活にする。

3.名前を覚える

相手の名前をしっかり覚えて、正しく呼ぶ。自分の名前を覚えていて、それを呼んでくれるということは、まことに気分のいいもので、つまらぬお世辞よりもよほど効果がある。

4.聞き手にまわる

聞き上手は相手に好かれる。相手の話をじっくり聞く。その際、話は決して遮らない。どんな褒め言葉にも惑わされない人間でも、自分の話に心を奪われた聞き手には惑わされるのだ。

5.相手の関心を見抜いて話題にする

相手が喜んで答えるような質問をし、相手自身や得意にしていることを話させるように仕向ける。人は、他人に対する興味の百倍もの興味を、自分自身のことに対して持っているのだから。

6.自分がしてほしいことを相手にもする

これはいわゆる「黄金律」であり、古今東西どこでも普遍的に機能する。「自分は重要なのだ」と相手に悟らせるために、褒めたり、信頼していることを伝えたりすることが大切だ。

人を説得する十二原則

1.議論を避ける

議論で相手を打ち負かしても何も得られない。やっつけられたほうは劣等感を持ち、自尊心を傷つけられ、憤慨するだろう。

2.誤りを指摘しない

人は自分の誤りを指摘されると自己防衛本能を働かせてしまう。よって「それとなく気付かせる」方法を取るべきだ。こちらの出方が優しくて巧妙だと、あっさり非を認め、むしろ自分の率直さや大らかさに誇りを感じることさえある。

3.こちらに誤りがあれば先に謝る

自分に誤りがあると分かれば、相手より先に自分で言ってしまうのがよい。そうすれば、相手には何も言うことがなくなる。

4.自分は味方であることを分からせる

人を無理に自分の意見に従わせることはできない。しかし、自分はあなたの味方であるという優しい打ち解けた態度で話し合えば、相手の心を変えることができる。

5.たくさん「イエス」と言わせておく

話し上手な人は、まず相手に何度も「イエス」と言わせておく。すると、相手の心理は肯定的な方向へ動きはじめる。

6.しゃべらせる

人は「しゃべりたい事」を必ず持っているはずだし、しゃべっているうちに頭の中が整理されて、自分で結論に達することも多い。相手の話を遮り、自分がしゃべりたくなるのを、いかに我慢するかが重要である。

7.自分の思い付きだと思わせる

相手に相談を持ちかけ、できるだけその意見を取り入れて、それが自分の発案だと相手に思わせて協力させる。人は命令されているより、自主的に行動していると思っている方が、はるかにパフォーマンスが良い。

8.相手のメンツを立てる

「もし自分が相手だったら、果たしてどう感じ、どう反応するだろうか」と自問自答する。少年のたき火をやめさせたいなら、ただ「やめろ」と言わずに「やあ、楽しんでるね。君たちなら大丈夫だと思うけど火の始末はしっかりね。次からはあっちでやってね」と言えばよいのだ。

9.同情を寄せる

人の「人となり」は先天的な要素や育った環境に左右されるのだから、その責めをすべて本人に帰するわけにはいかない。気の毒だと思って「もし神様のお恵みがなかったら、この相手が、私自身の姿なのだ」と考えるべきだ。

10.美しい心情に呼びかける

契約を守ること、家族を大切にすることなどを相手に訴える。例えば、何かをやめさせたい場合には、「私が嫌だから」ではなく「母が嫌がるから勘弁してくれ」と言ってみればよい。

11.演出を考える

「見せ方」は大切である。何かを可視化する、通常と違う方法でアピールする、発想を変えて労働を遊びにするなど、ビジネスに限らず、生活全般にわたって、ドラマチックな演出は活用できる。

12.対抗意識を刺激する

仕事には競争心が大切である。「他人よりも優れたい」という競争心を利用すべきだ。簡単な仕掛けでも構わない。競争は自己表現の機会を与えることになり、仕事を楽しくする。

人を変える九原則

1.まずほめる 2.その後、遠回しに注意を与える

褒めると人はやる気になる。一方、多くの人は褒めておいてから「しかし、、、」と続ける。これでは、「しかし」の後が本音だと見透かされる。褒めた後には「そして」と続けるべきだ。「お前の今学期の成績が上がって、本当に鼻が高いよ。そして、来学期も同じように勉強を続ければ、代数だって、他の科目と同じように成績が上がると思うよ」という具合だ。

3.自分の過ちを話す

人に小言を言う場合、謙虚な態度で、自分は決して完全ではなく、失敗も多いがと前置きして、それから間違いを注意してやると、相手はそれほど不愉快な思いをせずに済む。あなたが若い頃、完璧であったか思い返せば、謙虚になれるはずだ。

4.命令をしない

「あれをせよ」ではなく「こう考えたらどうだろう」「これでうまくいくだろうか」など命令を質問の形に変えると、気持ちよく受け入れられる。また、相手に考えさせることで、相手に創造性を発揮させることもある。

5.顔をつぶさない

相手のメンツを立てる。指導する時は「能力不足ではなく経験不足」と言う、解雇するときには「能力不足ではなく会社都合。あなたならどこへでも転職できる」と言うべきだ。

6.わずかなことでも具体的に褒める

人間には、他人から評価され、認められたい願望がある。だが、心のこもらないうわべだけのお世辞には、反発を覚える。褒め言葉が具体性を持っていてはじめて、相手の気持ちをじかに揺さぶるのである。

7.期待をかける

こちらの期待を先に言ってしまう。例えばガキ大将に「君はリーダーシップがあるんだってね。頼りにしているよ」と声を掛けると、本人は評価通りになろう、期待を裏切らないようにしようと思うものだ。

8.「あなたならできる」と激励する

欠点を指摘したり、才能がないと言うと、人は向上心を失う。そうではなく「やりさえすれば容易にやれる」と思い込ませ、そしてこちらは「あなたの能力を信じているのだ」と知らせてやるのだ。そうすれば相手は、自分の優秀さを示そうと懸命に頑張る。

9.役割を与えて協力させる

肩書や役割を与えることは効果的だ。例えば芝生を踏み荒らすガキ大将に「探偵」という肩書を与えて、芝生への不法侵入を取り締まらせると、少年たちは自分達で武器を作り、不法侵入者を追い払った。

学びのポイント

叱ることも必要?

USスチールの社長はこう言っている。

上役から叱られることほど、向上心を害するものはない。人を働かせるには激励が必要だと信じている。どんなに地位の高い人でも、小言を言われて働く時よりも、ほめられて働く時のほうが、仕事に熱がこもり、出来具合もよくなる。その例外には、まだ一度も出会ったことがない」

ところが、一般の人はどうか?まるで反対だ。気に入らなければめちゃくちゃにやっつけるが、気に入れば何も言わない。

管理職の皆様の中には、これを読むと「いやいや、時には厳しく指導しないと、周りも甘え始めるし、職場の規律が保てなくなるのでは」と思う方もいらっしゃるのではないかと思う。私もそれには同感だ。

大切なことは「感情的に叱る」ことはNGであるということ。どうしても指導が必要なのであれば「理性的に指導する」ということになるだろう。

しかし、USスチールの社長は「小言(≒理性的な指導)」すらしないという。それは若干極端な気もするし、自分の思い通りに部下が動いてくれなくなるリスクを孕むような気もするが、進むべき方向をポジティブな「褒める」ということで示す方が、結果的に部下のやる気にも繋がるという経験則だろう。

一度実践してみたいと思わせる内容である。

笑顔だから幸せになる

ハーバード大学の教授であったウィリアム・ジェイムズの説を紹介しよう。

「人間は意志によって動作を直接に統制できるが、感情はそうはできない。ところが、感情は、動作を調整することによって、間接に調整することができる。したがって、快活さを失った場合、それを取り戻す最善の方法は、いかにも快活そうにふるまい、快活そうにしゃべることだ

世の中の人は皆、幸福を求めているが、その幸福を必ず見つける方法が一つある。それは、自分の気の持ち方を工夫することだ。幸福は外的な条件によって得られるものではなく、自分の気の持ち方一つで、どうにでもなるのだ。

「幸福というのは自分の気の持ちよう」「幸福だから笑顔になるのではなく、笑顔だから幸福になる」という教訓は、古今東西、広く人口に膾炙している。もちろん全ては網羅できないが、主要なものを年代順に列記してみる。

事態が人間を不安にするのではなく、事態に対する見解が人間を不安にする。

エピクテトス

・事物は魂に触れることなく外側に静かに立っており、わずらわしいのはただ内心の主観からくるものにすぎない。

我々が怒ったり悲しんだりする事柄そのものにくらべて、これに関する我々の怒りや悲しみのほうが、どれほど苦しみをもたらすことであろう。

マルクス・アウレリウス・アントニヌス『自省録』

人生の幸不幸の境目は、みな人の心が作り出すものである。釈迦も同じことを言っている。

洪自誠『菜根譚』

現実世界のいかなる出来事も、主観と客観という二つの側面から成り立っている。

だから、客観的半面が全く同じでも、主観的半面が異なっていれば、また、これとは逆に、主観的半面がまったく同じでも、客観的半面が異なっていれば、現在の現実世界はまったく別様なものになる。(中略)

「客観的に現実にいかなる事態なのか」ではなく、「私たちにとって、いかなる事態なのか、私たちが事態をどう把握したのか」が、私たちを幸福にしたり不幸にしたりするのである。

ショーペンハウアー『幸福について』

・悲観主義は気分のものであり、楽観主義は意志のものである。

・私は義務の第一位に上機嫌を持ってくるに違いない。人生の些細な害悪に出会っても、不機嫌で自分自身の心を引き裂いたり、それを伝染させて、他人の心を引き裂いたりしないように、努めねばならない。幸福の秘訣の一つは、自分自身の不機嫌に対して無関心でいることだ。

・人間にとって、自分以外にほとんど敵はいない。人間は、自分の間違った判断や、杞憂や、絶望や、自分に差し向ける悲観的言動等によって、自分自身の敵になる。ソクラテスの時代、デルフォイにあったアポロン神殿の入口には「汝自身を知れ」と書いてあるではないか。

アラン『幸福論』

悲観主義者はすべての好機の中に困難を見つけるが、楽観主義者はすべての困難の中に好機を見いだす。
A pessimist sees the difficulty in every opportunity; an optimist sees the opportunity in every difficulty

元英国首相 ウィンストン・チャーチル

(例えば)自分の身長について長所と見るのか、それとも短所と見るのか。いずれも主観に委ねられているからこそ、わたしはどちらを選ぶこともできます。

つまり、われわれを苦しめる劣等感は「客観的な事実」ではなく、「主観的な解釈」なのです。

われわれは、客観的な事実を動かすことはできません。しかし主観的な解釈はいくらでも動かすことができるのです。

岸見一郎他『嫌われる勇気』

ミュンテ博士らは、笑顔に似た表情をつくると、ドーパミン系の神経活動が変化することを見いだしています。

「ドーパミン」は脳の報酬系、つまり「快楽」に関係した神経伝達物質であることを考えると、楽しいから笑顔を作るというより、笑顔を作ると楽しくなるという逆因果が、私たちの脳にはあることがわかります。

池谷裕二『脳には妙なクセがある』

実に2000年前のローマ皇帝から、現代の脳科学者までもが「幸せとは気の持ちようや解釈である」と主張しているのである。

そして「気の持ち方」の最も簡便な方法は笑顔になることである。コストゼロの投資、是非皆さんにも試していただきたい。

部下が説明に来た際に取るべき態度

「僕、わかっているよ──お母さんが僕をとても愛してくれているってこと」エスポシト夫人は、これを聞いて胸が熱くなった。「もちろん、とっても愛しているわよ。そうじゃないとでも思ったことがあるの?」「ううん、お母さんが僕を愛してくれていることはよくわかっている。」

「だって、僕が何かお話ししようとすると、お母さんはきっと自分の仕事をやめて僕の話を聞いてくれるんだもの」

「人の話を誠意を持って聴くこと」の効用が端的に示されている。

皆さんは、部下が何か説明にやってきた際、しっかりと手を止め、部下の方に体を向けて、傾聴の姿勢を取っているだろうか。PCをかちゃかちゃいじりながら応答したり、時計を気にしながら説明を聴いたりしていないだろうか。

人間、弱い生き物で、目の前の作業に追われていると、なかなかそれが出来ないものだ。しかし部下は必ず感じている、「この人は自分の話をしっかり受け止めてくれる人かどうか」を。

それが信頼関係にも繋がるのであるから、世の中の管理職は皆、部下が何らかの相談に来た際には、手を止めて、体を向けて、笑顔で迎えるべきである。

いわゆる「黄金律」

キリストはユダヤの岩山で、この教えを説いた。(世の中で最も重要な法則と言えよう)──「すべて人にせられんと思うことは、人にもまたそのごとくせよ」

人間は、誰でも周囲の者に認めてもらいたいと願っている。自分の真価を認めてほしいのだ。小さいながらも、自分の世界では自分が重要な存在だと感じたいのだ。

これはいわゆる「黄金律(The Golden Rule)」と呼ばれている教訓である。各宗教がこれと似た内容の教えを持つ。

「己の欲せざる所は、人に施すこと勿れ」論語(儒教)

「人が他人からしてもらいたくないと思ういかなることも他人にしてはいけない」マハーバーラタ(ヒンズー教)

また、仏教ではこの教えは明示されていないが、根本として人間には「私」や「あなた」と区別する意味がなく、皆、精神共同体の一員であるという教えがある。つまり、他人がしてほしくないことをすることは、自分を傷つけることになるという教えとは整合的と言える。

意見が一致しない時に取るべき態度

〝意見の不一致を歓迎せよ〟──「二人の人間がいて、いつも意見が一致するなら、そのうちの一人はいなくてもいい人間だ」という言葉を銘記すべきだ。思い及ばなかった点を指摘してくれる人がいたら感謝しなければならない。

〝最初に頭をもたげる自己防衛本能に押し流されてはならない〟──不快な状況に直面した時、まず現われてくるのは、自分の立場を守ろうとする本能だ。冷静に構え、最初の反応を警戒する必要がある。あなたの最悪の人柄が突出し、最善の人柄が隠れてしまうかもしれないのだ。

〝腹を立ててはいけない〟──何に腹を立てるか、それで人間の大きさが決まってくる。

ビジネスパーソンのみならず、誰でも心当たりがあるのではないか。特に「最初に頭をもたげる自己防衛本能に押し流されてはならない」はまさにその通りである。

何かネガティブなことが起こったり、意見が対立した際には、人はどうしても自分や組織のことを守ることを優先させてしまい、議論の本質を見失うことがよくある。こういう時はどうすればよいか。

方法は様々だが、「自分という自我が責められているわけではなく、自分の立場が責められている」と考えて、自我と立場を分離することが、まずもって自分の気持ちを楽にする。

その上で「自分の目からはこう見えるが、全体最適は何だろう」と冷静に考えてみることである。特にビジネスの場面では部署と部署、会社と顧客の利害が対立する場面も多いが、自分を守ろうとムキになることは不毛である。

部下に「言わせる」

人に押しつけられているのだとか、命令されているのだとかいう感じは、誰にしろ嫌なものだ。それよりも、自主的に行動しているのだという感じのほうが、はるかに好ましい。

相手に相談を持ちかけ、できるだけその意見を取り入れて、それが自分の発案だと相手に思わせて協力させるのが最善だ。

これは管理職の方なら実感のある話ではないだろうか。

一方的に「ああしろ、こうしろ」では部下は育たないし、何よりやる気を失ってしまう。まさに「命令されているのだとかいう感じは、誰にしろ嫌なもの」なのだ。

では、自主的に行動させるにはどうしたら良いか。

答えは極めてシンプルで、「質問すること」だ。「○○についてどう考える?」「どうしたら良いと思う」「なるほど、いつ頃くらいまでにやる必要があるだろうか」「上層部にはどこまで報告するかねえ」と必要な事柄を問い、部下にそれを答えさせるだけである。

答えた側は、自分の発案というコミットメントがあるために、それを実行しようと努めるはずである。指示するより、よっぽど部下は育ち、前向きに仕事に取り組むようになるはずだ。

数日待ってみる

(自分を批判する)手紙を突き付けられれば、誰でも腹にすえかね、無礼を懲らしめたくなるだろう。そこで早速反論の手紙を書く。ところが賢者はそれをすぐには出さない。

机の引き出しにしまい込んで鍵をかけ、二、三日してから取り出す(そういう手紙は、二、三日遅れたところで差し支えはない)。

冷却期間を置いて読み直してみると投函する気がしなくなる。私はこの賢者の方法をとった。

これぞ、まさに「処世術」の真骨頂であり、「賢者の方法」である。

ビジネスパーソンであれば、経験があるのではないだろうか。他部署から来る無礼なメール、責任のない立場から好き勝手言う外野陣、責任あるのに好き勝手言う上司、やりたい放題の顧客などなど・・・血圧が上がり、なんとかとっちめたくなる。

しかし、カーネギーはそれを諫める。そもそも、相手をとっちめても何の益もない。恨みを買い、ますます仕事がやりにくくなるだけである。加えて、自分を冷却するために「数日置く」というテクニックを使うことを奨める。

これも経験があるのではないだろうか。怒りでなかなか寝付けなくても、一晩寝れば、何となく怒りは収まるものだ。いわゆる「アンガーマネジメント」では「6秒待つと怒りは収まる」というが、6秒で収まりきらないものは、数日置くのが良いだろう。

デール・カーネギー
(創元社)

※人類全員が本書を読めば、人間関係ストレスがなくなる(はず)