なぜ、いま「徳(人間力)」なのか

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なぜ、いま「徳(人間力)」なのか

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これまでの自己啓発はAI時代に無意味化する

皆さんは「自己啓発」と聞いて、何が思い浮かぶでしょうか。  

簿記?英語?MBA?ロジカルシンキング? 

一昔前のビジネスパーソンは、資格取得に語学習得に、大幅な時間を割いていたものです。

しかし、これから迎えるAI時代に、これらのスキルは一切役に立たなくなります。

簿記?決まったルールで物事を仕分けるのはAIが最も得意とする分野です。財務諸表は読み方さえ知っておけば、その作り方まで学ぶ必要は一切ありません。

英語?遠くない未来にGoogleがストレスのない翻訳機をリリースするでしょう。私達が無理に英語を話す必要はなくなります。

MBA?いわゆる「経営学」は、会社経営を理論化した学問です。市場分析の方法やマーケティング理論ですね。MBAではケースと呼ばれる過去の企業の成功・失敗事例を書いた教材で、それらの理論をどう活用するかを学んでいきます。

しかし、これも大量の経営データさえサーバーに入れられれば、誰でも簡単に、ボタン一つで、直面する経営課題に対する正しい(と過去の事例から類推される)対処法を得られるようになるでしょう。そしてそれを実践しても、誰もが同じ答えを得ているので、競争には勝てないということになります。

ロジカルシンキング?これも考え方の「型」なので、数多くのパターンをAIに学習させれば、前提条件をいくつか打ち込むだけで、人間に代わってパソコンが考えてくれるようになるでしょう。

今後のビジネスにおいて必要な素養とは

これまで見てきたように、一般に「ビジネススキル」と呼ばれるものは、AI時代においては何の差別化要素にもならず、時間を掛けて身に付ける意味はほとんどなくなります。

では、人間しかできないこととは一体何なのか。

それは、「こんなことを実現したい」という意志や、「どうすれば社会や周囲の人のためになるか」という利他的な思考、そして「何が正しいか、善いか、美しいか」を判断する力であり、「徳」や「人間力」とも呼べるものではないでしょうか。

例えば、ソニーの創業者の一人・井深大は「不当なもうけ主義を廃し、真面目な技術者の技能を最大限発揮できる理想の工場を作る」という志で会社を立ち上げました。こういった、志を持ち、何らかのアクションを起こし、周囲を巻き込むということは、AIにはできません。

また、善悪の判断もAIの苦手とする分野です。日本で施行されている全ての法律・判例をデータベースに入れても、必ずグレーゾーンが残ります。

例えば分かりやすい例ですと、少し前に話題になった「夏休みの宿題代行業」。儲かるビジネスモデルではありますし、取り締まる法律もありませんので、AIならゴーサインを出すかもしれませんが、倫理的に良いのか、子供と社会の未来にとって正しいと言えるのか、といった判断は人間でしかできないわけです。

また、「ビジネススキル(=才)」は時代とともに変化します。一昔前まで常識だったことが、少し時間が経つと直ぐに通用しなくなる。例えば会計制度の変遷を見ていれば明らかです。最新の情報を一生懸命仕入れても、直ぐに陳腐化してしまうのです。

一方、「人間力(=徳)」、つまり「何が正しいか、善いか、美しいかの判断」は、人間が何百年もかけて追い求めている普遍的なテーマであり、時代背景によって変化はあるものの、根本の部分はソクラテスや孔子の時代から変わっていません。

AIの普及に伴い、スキルを身に付ける時代は終焉を迎え、これからは「人間」を学び、「徳」を身に付けることがより重要な時代に入ってきたと言えます。才では差別化できなくなった今、徳こそが、個々のビジネスパーソンの価値を高める時代なのです。

年齢や役職が上がるにつれ「才<徳」になる

 

業務能力例

対人能力例

20代

実務遂行

周囲と協調する

30代

計画・リスク管理・効率化

同じ方向にまとめる

40代

高い視座・広い視野・長い視点

やりがいを創る

(やる気と能力を引き出す)

50代~

真・善・美の判断

何を為すかという意志を示す

もちろん業種や職種、組織の大きさ等によって違いはありますが、概ね、経験を重ねるにしたがって、求められる能力も変化してきます。

これは私が考える「年代別に必要な素養」で、業務能力と対人能力に分けて記載してあります。

まず20代は養成期間として、周囲と協調しながら、しっかり実務を遂行する能力が求められます。

そして30代。係長とかグループリーダーになるような時期です。業務能力としては、計画的に物事を進める力とか、最小のインプットで最大のアウトプットを効率的に生むオペレーション力とか、リスク管理といった能力が求められます。そして対人能力としては、チームのメンバーを同じ方向にまとめていくようなリーダーシップが必要になります。

次は40代。課長とか、そういったクラスになってきます。業務面では、社内の他部署との調整や、何らかの大きなプロジェクトの立案と実行、そして社外との関係等も出て来るので、「高い視座・広い視野・長い視点」が必要になってきます。

対人面では、もはや自分が頑張る時代は既に終わっていて、チームメンバーの能力とやる気を引き出すために、やりがいのある仕事や職場環境を創出するという仕事が求められます。

そして50代以降。このステージになると、業務面では「真・善・美の判断力」、すなわち、何が正しくて、何が善いことで、何が美しいかを判断するような局面に出くわすようになる。そして対人面では組織の幹部として、「社会のためにこういうことを為していきたい」という意思を社内外に発信するようなことが求められます。

青色=スキル(=才)、良い仕事をするための手段

赤色=人間力(=徳)、良い仕事をするという目的

これらをざっと見返すと、青色の部分は「スキル」とか「才」と言うことができます。ある程度、社会人として仕事をしていれば身に付くであろう能力です。ただ、これらは「仕事をするための手段」でしかありません。例えば私たちは、計画的に業務を進めるために仕事をしているわけではない、高い視座・広い視野・長い視点を持つために仕事をしているわけでもありません。

一方、赤色の部分は、短期間の訓練で身に付くような素養ではない、いわば「人間力」とか「徳」と言うべき分野になります。そしてこれらは「目的そのもの」と言ってもいいと思います。

少し分かりにくいかもしれませんが、この赤色の部分は、自分や周囲の能力を最大限活かし、社会に役立つ正しいことを、会社という組織を通じて為す、という人生の目的の一つ(=どう生きるか)とも言える領域ではないかと思います。

ひっくるめると、良い仕事をし、やりがいを感じるためには、才も徳も必要。しかし「才」は今後AIに取って代わられる可能性が高い。つまり大きな目で見れば、これからのビジネスパーソンは「才徳兼備」「才<徳」を目指していく、というのが正しいのではないでしょうか。

しかも、少子高齢化・働き方改革・コンプラ重視という環境の中、合理性や論理性(=才)を大義名分に、部下を使い込み、不適なら交代させるという、グイグイ系のリーダーは時代遅れになりつつあります。これまでより「人」という資源が希少になる中、長時間労働やパワハラなどはもっての他ですし、「やりがい」や「働きやすさ」が無ければ、人はどんどん会社を去って行ってしまいます。

よって令和の時代においては、最低限の才に加えて、人間力(=徳)で、やりがい・成長・心理的安定性を提供し、部下の力を最大限発揮させるリーダーシップこそが求められるのです。

では、次の項目で、この「才」と「徳」について詳しく見ていきたいと思います。